Handmade Life

〜 one tree of Life 〜
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〜妖怪を倒す刀〜
「おっさん!!頼むよ!!忠吾を生き返してくれ!!」
俺はおっさんにしがみつきながら叫んだ。
おっさんは暗い顔して俺の腕を振り払った。
「・・・できん」
「なんでだよ!?」
俺はとっさに言った。おっさんならできる。
半年前に伊之助達を生き返したんだ。翠月とその死体があれば生き返せる、そうじゃなかったのか。千草の親父の時とは違う。忠吾はここに居る。
「翠月がなぜ妖怪を倒す刀と言われているのかわからんのか」
「んなこと知るかよ」
「翠月がなぜこれほど強い力を秘めてるかわかるか」
「知らねぇって言ってんだろ」
今日に限っておっさんは回りくどい言い方をする、面倒臭ぇ。
「翠月は斬った妖怪の力を吸い取る刀だ」
市橋が横から口を挟んだ。こいつは用件だけ言うから話が早ぇ。
・・・ってことは。
「わしにはほとんど力がない・・・そこにいる男を生き返らせる事などできん」
「そういうことだ、源山は最早俺達と変わらない。名ばかりの妖怪だ」
市橋はそれからこの町にいる二種類の妖怪について話した。
力を持つ妖怪と持たない妖怪。
その違いは先祖が翠月で斬られたかどうか、それだけのことだと。
源山は半年前に白峰に翠月で斬られた・・・それから力を失ったこと。
わけわからねぇ話しだったが要はこういうことだろ。
「おっさんはもう何も出来ねぇんだな」
「・・・そうじゃ。すまん」
「謝る事ぁ無ぇよ。俺が変なこと考えたのがいけなかった」
俺はそう言って根城を後にした。こうなりゃ忠吾の為にやれることはひとつしかねぇ。
「どこへ行く」
「仇討ちに決まってんだろ」
「・・・待って!!」
俺を止めたのはさつきだった。ずっと忠吾の傍で泣いてたみたいで目が赤くなってた。
「なんだ?お前も行くのか?」
「私に・・・やらせて」
さつきはそういうと手に持ってた脇差の柄を俺に向けた・・・どうやら抜けと言う意味らしい。
「翠月だ」
俺が戸惑ったのがわかったのか市橋がそう言った。なるほどな・・・でもこの女。
「もしかしてお前・・・」
「源山の娘、なんだって私」
俺は一瞬腰を抜かしそうになったが、それなら話が早い。
「わかったよ」
俺は翠月の柄に手をかけ、ゆっくりと引き抜いた。
相変わらず刀身は深い緑色に輝いている。
俺は抜き身になった刀をさつきに向け、渡した。
「ありがとう」
「礼を言うのはまだ早ぇ」
さつきはなにかぶつぶつと唱え翠月を天にかざした。

・・・が、なにも起こらなかった。
忠吾はピクリともしない。
「やはり無理じゃったか・・・そもそも反魂術などわしは誰にも教えておらん」
「それに翠月の力も半分以下になってるだろうな」
俺もなんとなくだがそう思っていた・・・結局やることは変わらないと思っていた。
忠吾の為にできること・・・仇討ちだ。
「待て」
根城を出て行こうとする俺に市橋が声をかけた。
「言っておくが、止めるなよ」
「俺も行く・・・どうしても気になる事がある」
市橋はさつきから翠月を受け取り、俺と市橋は根城を後にした。

落ち込んでるさつきにおっさんが声をかけていたが、俺達には聞こえなかった。
それほど遠くには行ってないはず。
俺たちはあのボロボロになった小屋を目指す事にした。
| 高田 一樹 | 翠月が笑ったらぶった斬れ!2(小説版) | 14:02 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
〜源山の過去〜
俺は伊之助に化けていたこのさつきと言う女を連れて走っていた。
向かう先にはこの女の仇源山がいる。
「お前の兄の仇は本当に源山で間違いないんだな」
俺は走りながら確認した。確認したところでそれを信じるかどうかと言えば違う。
どうやらさつきは走るのに精一杯で答えようとしなかった。

日が西に傾き空が赤くなる頃、ようやく妖怪の根城に着いた。
岩が口を開けるような暗い入口を通る。
どうやら白峰はいないらしい。外に出てるのか。珍しいこともあるもんだ。少し速度を落とした俺の歩みにさつきは疑問を抱いたらしい。
「いいか。この先に源山がいる」
「本当に?」
「ああ。だがそれがお前の仇かどうかはわからん」
「なによ、それ」
「自分で確かめろ」
俺はそう言い歩を奥に進めた。人影がある。
「源山」
そう呼びかけるとその影はピクリと動き、こちらを振り向いた。
「おお、勝歳か・・・どうした?」
間違いなく源山だ。そう思った瞬間−さつきは俺の脇差を引き抜き源山に斬りかかった。
源山はそれを右手で受け止める−普通なら右手は切り落されるような速さだったが源山は全く動じずに受け止めた。それは鞘もろともの刀だった。
「その刀はお前には抜けん」
俺は慎三郎に斬られた【翠月】を脇差として持ち歩いていた。装飾を変えて。
そのほうが安全だと判断したからだ。
「物騒な子供じゃな」
源山は斬りかかったさつきにそう言った。
「で、勝歳。わしに何の用じゃ?」
「源山・・・お前は人を殺した事があるか?」
単刀直入に聞いた。
「無い・・・と言えば嘘になる」
源山は正直に言った、それはそうだろう。妖怪がなにかしらの事件を起こしていなければ天巌隊が組織された経緯がわからなくなる。
「しかし直接手を下したことは一度も無い」
「岳牙か白峰にやらせたのか?」
「そうではない・・・」
要領を得ない源山の話に俺は少し混乱する・・・が、源山は続けた。
「わしには妻が居た・・・天巌隊が組織される頃じゃったから大手を振って幸せとは言えんかったが、それでもわしは良かった。しかしある日天巌隊がわしのところへ来た、そこで初めてわしが純血妖怪だと知った天巌隊は真っ先にわしを討伐する気でいたらしい。わしは必死で戦い妻を守った・・・それでも逃げるのが精一杯じゃった」
源山はそこで机に置いてある酒を一口飲んだ・・・源山がここまで長話をするのは初めてだ、いやそれ以前にこの男の過去など俺は知らなかった。
「わしはいくらか傷を負ったが妻は無事だった。わしはこれからは一緒にいられないと悟り、妻にどこかへ逃げろと言った。妻は当然それを拒んだが、わしもその方が二人の為だと妻をなんとか納得させた。しかし妻が逃げるのを天巌隊は追いかけた、それを助けたのが門司じゃった」
俺は少し驚いた・・・門司隊長が妖怪を助ける為に人を斬っていたこと・・・あの人ならやりかねんとは思ったが。
「門司はそのまま妻を逃がした・・・だがわしは後にその先が都であることを知った」
源山の言いたい事がわかった。都は天巌隊を作るように桜下町に命をくだした場所、そんな場所が妖怪の存在を認めるはずが無い・・・つまり源山の妻が生きることなどできるはずがない。
「今にして思えばそのまま門司に頼めば良かったのだ・・・だが天巌隊の人間を信用してはならんと思った。それから先は前に言った通り一人になったわしに門司は居酒屋を任せ、門司は『天巌隊の隊士数名を殺した源山』を守った」
「・・・そうか」
俺は源山の話に頷いたが心の中では納得しなかった。それではさつきの仇になるとは言いがたい・・・しかし源山は話を続けた。
「もうひとつある・・・それから少しして文が届いた。妻からだった、わしは驚いたが門司が小村屋のことを報せていたらしい。手紙の内容は『子供が出来た・・・名をさつきとしようと思う』」
「え・・・?」
それまで黙っていたさつきが顔を上げた。無理も無い、源山の話が正しければこのさつきは源山の娘と言う事になる。それならさつきが純血妖怪なのも納得できる。

「おっさん!!」
奇妙な一瞬の沈黙の中慎三郎が入ってきた・・・背中には男を抱えている。
「こいつを生き返してくれ!!」
慎三郎が背中から降ろした男は既に息絶えている上に左腕が切り落されている。
・・・無惨だ。
それを見てさつきが叫んだ。
「忠吾!!」
忠吾・・・俺はこの男を知らない。しかし名は知っている。


俺は疑問を抱えたまま妖怪の根城で立ち尽くした。
| 高田 一樹 | 翠月が笑ったらぶった斬れ!2(小説版) | 16:02 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
〜死した忠吾と紅月を掴む〜
−目の前が真っ白になった。

息をしなくなった忠吾を俺は掴んでいた。
自分の力で立てなくなった忠吾は力無く崩れた。
ぐちゃぐちゃになった意識の所為か、急に力の抜けた忠吾の所為か・・・俺は手を離しそうになった。いや、この後を考えればそのほうが良いはずだったが、俺にはそれができなかった。ただ、俺もあの妖怪になにかされたのか意識を失いかけていた。
「やべぇ」
そう思っただけで俺も忠吾を追いかけるようにして倒れた。

−真っ白になっていく視界が一気に暗くなる。

ほのかに赤いその闇の中に立っていたのは忠吾だった。
忠吾は刀を抜いたまま俺に背を向けていた。
「おい、忠吾!!」
生きてたのか・・・とは聞けなかった。確かに忠吾は俺の目の前で死んだ。
実際、もっと疑っていいもんだと思ってたが、人が死ぬってことは疑う事のできねぇもんだとさっき知った−それならこれは夢なんだろ。

俺に見える世界は少しづつだが明るくなっていった。それでも赤と黒の二色だけだが。
忠吾の先にはさつきがいた。
名前を紹介されたわけじゃねぇけど、あの時小村屋でぶつかってきた女がそうだろ。
「ガキは趣味じゃねぇよ」
さつきのさらに奥から声がした。影しか見えねぇがその声は明らかに岳牙だった。
周りには数人の妖怪が倒れた後だったようだ。
さっさと闇へ向かう岳牙。俺がそれを見ていると不意に声をかけられた。
「ああ、慎三郎さん・・・やはりあなたは使えたんですね、紅月を」
「なんだよこれ」
「夢の中ですよ・・・私の」
−夢・・・死んだんじゃねぇのか、忠吾は。
そう思っている俺を尻目に忠吾はさつきを見ながら言った。
「あなたにこれを見せておきたかった」
そう言い出して忠吾はさらに続けた。
「私は宛ても無く旅をしているだけの人間でした・・・武者修行だとか奉公先を探すとかそう言った考えは持っていませんでした。思えば死に場所を探していただけなのかも知れません」
長い話ってのはどうも好きになれねぇが、俺はこの話だけは聞いとこうとなぜか思った。
「さつきはたまたま会っただけです。初めて会ったときはちょうど今のような姿でした」
「一回しか見たことねぇけど・・・なんか気弱そうだな」
俺は思った感想だけ言った。
「そうです。さつきはどうやら仇を討つつもりで村を出たそうです・・・この桜下町から遠くは無い山の中でした」
忠吾はそう言うとさつきの足元にいた妖怪を斬った。そいつの右手はさつきの足首を掴んでいた。怯えた目をして振り返ったさつきの頭を忠吾が撫でた。
「私はさつきの仇討ちを手伝う事にしました」
「暇潰しかよ」
「始めはそうでした・・・でもそれから何ヶ月かさつきと過ごすうちに考えが変わりました」
忠吾はそのままさつきとの生活を並べていった。その中でさつきは変わったと言った。
「それで思ったんです。自分がこんなに年下の子供に頼って生きていることに」
・・・俺はハッとした。俺も同じだった。千草に出会うまではどうでも良かった。
「さつきは兄を殺されたと言ってました。私はいつしか自分がその兄になったように思ってました」
「・・・悪い」
俺はいたたまれなくなってそんなことを言った。俺がでしゃばらなければ忠吾は死んでいなかった・・・もっとさつきの兄として生きていられた、そんな気がした。
「いいんですよ・・・悔いは残りますが、慎三郎さんに会えた。その刀を託せた」
「それだけでいいのかよ」
「本音を言えば良くないですよ・・・私が死ねばさつきは兄を二人亡くしたことになる。でも私の役目は仇討ちですから。さつきの兄になる事じゃない」
忠吾はそのまま続けた。
「それに私よりもきっとあなたのほうが仇を討てる。そう思いましたから」
なんだよ、それ。勝手になすりつけてんじゃねぇぞ。
「そうじゃねぇよ!!まだ生きてぇのかって聞いてんだよ」
俺に考えが浮んだ。俺らしくもない閃きだった。おっさんに頼めば・・・!!
「生きたいです・・・まださつきの傍にいてやりたい」
「わかった!!任せろ!!」

俺は翠月とおっさんを探しに出かけた。
いつの間にか俺の世界は赤と黒の二色から普段の色に戻っていた。
| 高田 一樹 | 翠月が笑ったらぶった斬れ!2(小説版) | 15:47 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
〜岳牙と忠吾と慎三郎〜
「おい!!お前の仇ってのは妖怪か!!」
忠吾の後ろから慎三郎が声をかける。忠吾の前には岳牙が走っている。三人は岳牙が妖怪を見かけた場所へと走っている。慎三郎は小村屋を出る時に外にいた天巌隊に声をかけたがどうやら伊之助・信也では不安らしく義隆を呼ぶ事にしたようだった。
「ええ、そうです。私ではなくさつきの仇ですが」
忠吾はそう付け加えながら答えた。

「あそこだ」
岳牙は急に立ち止まると人差し指を口の前に出し、静かにしろと言う意味の手振りをして二人に言った。三人とも息切れをするような距離では無く、郊外だが山の中と言う程でもない。そんな場所に着いた。
岳牙の目線には古びた小屋があった。誰も住んでいる様子が無く、屋根も所々穴があいている。雨風は全くと言って良いほどしのげそうに無いし、なにより岳牙の言ったような妖怪の姿は見えなかった。
慎三郎は拍子抜けしたように言った。
「おい、誰もいねぇじゃねぇか」
「ちょっと黙ってろ、バカ」
「バカだと、お前だって似たようなもんじゃねぇか」
「ちょっと待って下さい、喧嘩しに来たんじゃないんですから」
少し熱くなりかけた二人を忠吾が制した。二人はお互いに納得したのかにらみ合いをやめた。忠吾は軽いため息をつき、これからの作戦をたてようと岳牙のほうに目線をやった。
その時だった。
「喧嘩しに来たんじゃないならなにしに来た」
問いかけとは受け取れそうに無い、ひどく高圧的な言い方で後ろから声がした。
後ろと言ってもそれは岳牙の背後で、忠吾はそれに気がついた。
しかし、反応する間もなく岳牙は忠吾の足元に倒れた。
「おい!!岳牙!!」
倒れた岳牙の背中に血は流れていなかった・・・どうやら刺されたりはしていないようだった。岳牙を引き起こそうとしゃがみかけた慎三郎の肩に忠吾は手を置き、制止した。
「おそらく大丈夫です・・・それよりも」
敵は一人ではなかった。慎三郎の振り返った先には今まで見たこと無い程の数の妖怪がいた。ちっ、と舌打ちをしながら慎三郎は刀の柄に手を伸ばした。忠吾も同様に自分の腰の刀の柄を握った。
「ざっと十はいますね・・・この町はいつもこうですか?」
「んなこたねぇよ、俺も初めてだ」
「・・・どうします?」
「どうもこうもねぇよ!!」
慎三郎の頭の中には岳牙が倒された事、そしてここに来てなぜこんなことに首を突っ込んだのかと言う自分への苛立ちが興奮となって昇った。忠吾が慎三郎を止めに入る間もなく慎三郎は岳牙を倒した妖怪へと斬りかかった。
−ガギッ!!
その妖怪は妖怪らしく右手の甲で慎三郎の斬撃を受け止めた。
「妖怪みたいな気性の荒さだな」
「残念ながら妖怪じゃねぇよ!!」
慎三郎は続け様に斬撃を繰り出した。が、ことごとく妖怪はそれを受け慎三郎の上段斬りの隙をつき、彼の腹を蹴飛ばした。
「ぐぁっ」
声にならない声をあげ、忠吾の前まで跳んだ。
「さあ言え。なにしに来た」
「さあ。俺もなんでかはわかんねぇな」
立ち上がろうとする慎三郎を忠吾が刀で制した。
「聞きたい事があります・・・源山と言う妖怪を知りませんか?」
その言葉に驚いたのは妖怪ではなく慎三郎だった。
「忠吾、なんでおっさんの名前知ってんだ」
「・・・さつきの仇です」
「おっさんが仇?嘘つけ!!」
慎三郎が忠吾の胸ぐらを掴んだ。その瞬間−

−ドシュッ!!

耳障りな音と共に忠吾の左手が宙を舞った。
その瞬間からその忠吾の左腕が地に落ちるまで慎三郎には全てが遅くなって見えた。
「聞いておいて無視してんじゃねぇ」
妖怪はそう言ったが慎三郎の耳には届かなかった。・・・意識が遠くなる。
忠吾を掴んでいる自分の手が自分のものではない感覚がした。
力の抜けた慎三郎の左腕から忠吾は力無く崩れ落ちた・・・。

−死んだ・・・。

人が死ぬのを見たことは無かったが直感的に慎三郎はそう感じた。
それでも遠くなっていく意識の中で岳牙が起き上がろうとしているのが見えた。
「今起きたらマズいぞ・・・」
そう思った目線の先におぼろだが見知った顔があった。
「またお前が黒幕かよ・・・白峰」
四月三日昼。
慎三郎の意識はそこで途切れた。
| 高田 一樹 | 翠月が笑ったらぶった斬れ!2(小説版) | 22:06 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
〜天巌隊屯所内〜
…笑えるな…これだけの数の妖怪がどこに潜んでやがったんだ…。
ぱっと見るだけで両手両足の指を足しても余るくらいの妖怪が並んでいる。
夜…おかしい…さっきまで朝だったはずだ。
それにこれだけの桜…まだ満開にはほど遠いはず。
俺は空を見上げた…赤い三日月、昨夜の月と全く同じ。
ふと気付く。
妖怪の中に白峰がいる。
「おい、どういうことだ」白峰は案の定薄ら笑いを浮かべ言った。
「夢よ…ふふ、わかってるんでしょう」
「だろうな」俺は右手に持っている抜き身の刀を左手に振り降ろした。
俺の視界は染まった…が、おかしい。
俺の血は青い…。


「隊長起きてください!!隊長!!」
馬鹿でかい声が俺の上で聞こえる…伊之助か。
「…なんだ」
隊長と言えども眠い時は眠い、明け方まで話し続けたんだ。大体、俺はそんなに話すのが得意なわけじゃない…疲れて何が悪い。
「隊長、妖怪です!!」
−!!…俺は飛び起きた。伊之助は驚いたように飛び退いた。
「どこだ?」
「小村屋の先の山の麓らしいです」
「【妖怪の根城】か」
俺は枕もとに掛けて置いた大刀と脇差を掴むと早々に扉に手をかけた。
「隊長!!【翠月】はどこです?置いていくわけにはいきません」
伊之助はそう言うと俺の肩に手をかけた。
−−違和感があり過ぎだ。
「おい」
「はい、なんですか」
俺は声をかけると同時に腰に差したばかりの大刀の鯉口を切り、伊之助に突きつけた。
「なにするんですか!?」
「俺を騙したつもりか、偽者」
「なにを言ってるんですか?」
…とぼけやがって、寝起きじゃ俺も機嫌が悪い。
「本物の伊之助なら今俺の前に立ってない、さっさと後ろに転んでるだろう」
「…」偽者は早々と口を閉じた。
「それから…いくら俺が寝てるといえお前の足音には気がつくはずだ。うるさいからな」
まだ、ある。
「もうひとつ…伊之助はそんなに頭はまわらない。【翠月】のことなんて妖怪が出てきたなら忘れてるだろうな」
そこまで聞くと偽者は姿を変えた…青い煙の向こうに影が浮かび上がる。
「あ〜ぁ…結構上出来だと思ったのになぁ」
だんだんと視界がはっきりとしてくる、それに伴って影の正体も見えてきた。
「お前は…」
「お前じゃなくて、さつき…初めて名乗りましたね」
入隊試験を覗いていた子供…あの時はさっさと逃げやがった。
「何の用だ」
「【翠月】をお借りしたいんです」
子供のくせに流暢な喋り方をする女だ…気にいらんな。俺はさつきに切っ先を向けたまま続ける。
「なぜだ」
「あれ、姿を戻したら喋らなくなりましたね」
ますます気にいらない。俺は刀を上段に構えた。
「斬るぞ」その一言はきいたらしい。さつきは喋りだした。
「私は敵討の為にここに来ました…」
どうやらこの女は兄を殺されたらしい、その真相を探っていたらその仇がこの町にいると言うことがわかった…それでこの町に来たそうだ。半年前に似ている…ここまで聞いて俺はそれだけ思った。
「忠吾とは…どんな繋がりがある」
入隊試験の日、わざわざ忍び込んだのにはわけがあるはずだ。肉親といえば通れただろうに…いや、あの時伊之助と信也は外に出していたから見張りはいなかった、か。
「ただの用心棒です…話すと長くなるので今はこれだけで勘弁してください」
「…なぜ【翠月】が必要だ?あれはお前には抜けん」
「でしょうね…」知っていたらしい、翠月が人間にしか抜けないことを…それでも必要としてる理由は…おそらく。
「お前、純血妖怪か」俺の問いにさつきは即座に答えた。
「ええ」
天巌隊は方針を改めた。
−桜下町の治安維持−。
それが今の天巌隊の存在意義。
「いくら敵討だろうと今この町に住む奴を斬ろうとするならお前を斬る」
俺は自分なりの答えを口にした。するとさつきは涙を浮かべて俺に言い切った。
「それなら…過去に斬られた兄はどうなるんですか!!」
「過去は過去だ」
「今でも平和に暮らしてるんでしょ…は!!」
−嘘だ。俺は耳を疑った。
「もう一度言ってみろ」


「私の仇は…源山って妖怪なの!!」
| 高田 一樹 | 翠月が笑ったらぶった斬れ!2(小説版) | 00:25 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
〜千草の朝〜
私は眠れずに迎えた朝をいつも通り料理の仕込みから始めた。
それでもいつもより早く始めたから時間が余って、仕方ないから店の前の掃き掃除を始めることにした。…慎ちゃんの仕事なのに。
私がぶつぶつ呟きながら掃き掃除を始めようとすると箒が無いことに気付く。
慎ちゃんが持ってったんだ…なんでだろ。
−もどかしい。なにをやっても慎ちゃんのことばっかり。

私は早めに店に暖簾をかけた。
すると後ろから声をかけられた。
「なんだ、今日は早いんだな」
慎ちゃんだと思って振り返ると…岳牙さんだった。がっかりだ。それにそんな期待をした自分にイラついた。
「なんだよ、ムスッとしてよぉ。入っていいんだろ?」
「ええ、どうぞ」
岳牙さんと店に通すとまた後ろから声をかけられた。
「なんだ、今日は早いんだな」
…慎ちゃんだった。
「もう、どこ行ってたのよ」
「悪ぃ、悪ぃ。ほら」
慎ちゃんは私の気持ちなんて気にも止めずに巾着袋を渡した。
「岳牙のツケ。もらってきてやったぞ」
「おっ、悪ぃな」
「ったく、テメェで持って来いよ」
暖簾から顔を出した岳牙さんと話しながら店の中に入っていく慎ちゃん。なんかいつも通りでむかつく。
「慎ちゃん、箒は?」
「あ、壊れちまってよ」
もう…そんなんだろうとは思ったけど。っていうか箒って壊れるもんなの?
「俺、すげぇ眠いから寝るわ。おやすみ」
そういうとさっさと奥に入っていった。もういいや、帰ってきたし。起きたら忠吾さんのこと聞いてみよう。


昼過ぎになると忠吾さんが来た。いらっしゃいと声をかける私。…良かった、もういつも通りだ。
「おっ、さつきちゃんはどうした?」
岳牙さんはまだ居る。相変わらず空の瓶を目の前に置いて。
「散歩に出かけました、どうやらこの町が気に入ったみたいで」
「それは良かったです」
と、お茶を差し出す私に忠吾さんは注文を告げる。そこへ信也さんも入ってきた。やっぱり昼時はちょっと忙しい。
「なんだい、遅かったじゃねぇか」
「巡回任務中なんだよ。だから酒は飲まないからな」
「なんだと、じゃあ帰れ!」
岳牙さんは急に怒り出した。お酒が飲めないとなると態度が一変する。単純で、なんか笑える。まあまあ、となだめると店の外に伊之助さんが見えた。
「伊之助さんは昼食食べないんですか?」
扉の隣りの格子戸から声をかけると伊之助さんは「痩せようと思って」と言いながら振り返ったけど、手には団子を持っている。
「そうですか」と私は信也さんと忠吾さんの昼食を用意する。
後ろから岳牙さんの「団子食ってんじゃねぇか」というつっこみが聞こえる。

昼食を作り始めると岳牙さんは「暇だ暇だ」とつぶやき始めて、仕舞いにはお店を出て行った。「ちょっとぶらついてくらぁ」…お酒が飲めないのが相当つまらないみたいだった。

昼食を作り終えて二人に出したところで慎ちゃんが起きてきた。
もうちょっと早く起きてくれれば手伝わせたのに…間が悪い。
「おはよう、千草」
「遅いわよ。そうそう、お客さんよ」
そう言いながら私は慎ちゃんを忠吾さんの席の向かいに座らせた。
「お食事中すいません、これが慎三郎です」
「これってなんだよ」
うるさい、あんたみたいなのはこれで充分よ…と言いたくなったけど人前だから我慢、我慢。
「あなたが…」忠吾さんは箸を置いて話した。
「忠吾、ってんだろ?」慎ちゃんはぶっきらぼうに言った。どうして、名前を知ってるんだろう…やっぱり顔見知りなのかな、でも忠吾さんはそんな風じゃないし…。
「市橋から聞いてんだ」
「市橋…?」
「あ、天巌隊の隊長だよ。皆、隊長って呼んでるからあんまり知られてないけどな」
忠吾さんは、ああ、と頷いた。どうやら知っているようだった。

「貴方に相談があるのですが…」
やっと聞きたかったことが聞ける。私は失礼だと思いながらも、人の会話に聞き入った。
「私はさつきの用心棒です、が、今は敵討ちの手伝い人です」
「物騒だな…で、その殺し屋みたいな奴が俺に何の用だ?」
「これを…抜いていただきたい」
そういうと忠吾さんは刀袋に入った刀を取り出した。私は目を疑った。
白塗りの鞘に、荒い柄捲、そしてそこから発する雰囲気は妖刀【翠月】だった。
「どうしてこれがここに…」
慎ちゃんも私と同じ気持ちだったんだろう、私が口に出しそうな言葉を言った。
「この刀は妖刀です、見ればわかると思いますが」
それから忠吾さんは説明した。この町に妖刀を抜ける男が居ると言う噂を聞いたこと。それが慎ちゃんだったこと。そしてそのまま続けた。

「この刀の名前は妖刀【紅月】(くげつ)…人間にしか抜けない刀です」
慎ちゃんがそれを手に取ろうとした時、外に出ていた岳牙さんが走ってきた。
「妖怪だ!!」
奥にいた信也さんは店を飛び出した。次いで忠吾さんも席を立った。
「おい!この刀は?」
走り出そうとした忠吾さんの後ろ姿に慎ちゃんは声をかけた。
「差し上げます、私には使えませんでしたから」
そういうと忠吾さんと信也さんは店を後にして岳牙さんの後をついていった。
「慎ちゃん…どうするの?」
「どうするもなにも…」
そういうと慎ちゃんも店を出て行った。
…妖刀【紅月】を手にして。

私は店に独りになった…そして気付いた。
運命からも取り残されているのだ、と。
| 高田 一樹 | 翠月が笑ったらぶった斬れ!2(小説版) | 15:57 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
〜義隆の朝〜
四月三日。曇り。
珍しく隊長が朝帰りをした。迎えに行った伊之助さんに事情を聞くと、
「いきなり『屯所に戻れ』と恐い顔して言われたんで帰ってきました」
…あの人が恐い顔するのは別に今に始まったことじゃないんだけどなぁ。
「それまで談笑してたんで、余計恐かったんですよ」
と、伊之助さんは付け加えた。うん、そっちのほうが珍しい。

いつものように朝起きて顔を洗ってると隊長が帰ってきた。慎三郎さんと一緒に。
この二人の組み合わせも珍しい。
「珍しい組み合わせですね、今日はこれから雪でも降るのかな」
と、冗談まじりに聞いてみたけど二人は暗い顔で通り過ぎていった。
屯所の道場に入るところで立ち止まった隊長が僕に言った。
「お前も来い」
二人について行くと保管してある翠月に着いた。
「…やっぱそうだよな」
慎三郎さんはそこで初めて口を開いた、そういえばこんなに寡黙な彼も珍しい。

これはもう雪どころの話じゃないかもしれないな。
「気は済んだか?」
隊長が慎三郎さんにそう言うと慎三郎さんも頷いて、早々と帰っていった。
「なにかあったんですか?」
僕はやっとそこで聞きたいことを聞いた。
「妖怪だ」
隊長の淡々とした口調で説明を受けた。
「これからなにが起こるかわからん、お前も用心しておけ」
そう言って隊長は自室のほうへ歩き出した。
「あの…入隊式はどうしますか?」
「任せた…昼に起こせ」
どうやら隊長は相当眠いらしい…それもまた珍しい。


無事に入隊式を終えて…と、言っても隊長がいないから伊之助さんと信也さんへの紹介だけだったけど。二人に町の案内を頼んでおいた。これで僕はのんびりと屯所で見張りができる。信也さんは新人には厳しくあたる、そういえば伊之助さんの時もそうだったな。
伊之助さんも「ああ、喉が渇いたなぁ!お茶が飲みたいなぁ!」と大きい声で言った。どうやら新人を走らせたいんだろう。「買ってきますよ」という一言ににんまりと笑みで答えていた。新人いびりって言うやつなんだろうけど、その構図はすぐに変わるだろうから放っておこうと思った。こういう考えは自分でも残酷だと思う。

三人が屯所から出て行くと、一気に静かになった。
自分で淹れたお茶を飲んで、少し色の入った桜を眺めていた。
「僕は貴方のように人を斬ったことはない」
急にあの入隊試験で聞いた声が頭の中にこだました。
未だにその真意は聞けてない…。だからその事を考えるとあっという間に時間が過ぎてしまう。答えがわからないから、探そうとしてしまう。だけど、他人の言葉の答えは他人しか知らない。
僕は顔を軽く、叩いた。
「やめよう」
僕らしくない、考え事なんて。

しばらくすると騒々しい足音で伊之助さんが走ってきた。
「義隆さん!!やばいです!!」
「どうしたんですか?」
「妖怪です!!それも…なんか、いっぱい!!」
…緊張感が無い言葉だけど、それも動揺から来てると見てとれた。
「わかりました、行きましょう!!」
「俺、隊長を起こしてきます!!西に行ったところで信也さんが待ってますから!!」
そういうと伊之助さんは隊長の部屋へ駆けていった。
僕は屯所を後にして信也さんの下へ走っていった。

−珍しいことだらけの日。嫌な予感を振り払うように走った。
辿り着いた先には屯所を出た三人がいた。
僕に報せに走ったはず伊之助さんが言った。
「良かった、呼びに行こうと思ってたんですよ」
「え?」
「妖怪が出たそうです、それもかなりの人数で」
嫌な予感はさらに強くなった。
| 高田 一樹 | 翠月が笑ったらぶった斬れ!2(小説版) | 14:45 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
〜市橋side〜
気がつくと夜空に浮んでいた赤い三日月は消えていた。

妙な胸騒ぎに引かれ伊之助を先に屯所に帰らせて俺は走った。
赤い光に照らされた未開の桜はまるで秋の枯れ木のように見えた。

伊之助から灯りを借りてくるんだったな。

冷静に振舞うつもりが時にへまをやらかす。
それもこの月の所為だ。この月はあの頃を思い出させる。
−門司隊長が死んだ日。
その日も何故かこんな三日月だった。
門司隊長は真紅の血にまみれて倒れていた。駆けつけた俺と義隆に隊長はただ口元に笑みを浮かべるだけで自分をこんな目にあわせた者の名を語ろうとはしなかった。
俺は義隆にその場を任せ、辺りを走り回った。
だが、なにも見つからなかった。義隆のもとに戻ると隊長は息をしていなかった。
呆然としながら義隆が俺に隊長の遺言を告げた。
「これからは勝歳さん…貴方に隊長を任せるそうです」
…わからなかった。何故俺なのか?義隆は他のことは口にしなかった。
俺たちは天巌隊を狙う妖怪の仕業だと他の隊士に言った。
他の隊士はあっと言う間に辞めていった。
今まで隊士が妖怪に殺されることはなかった。そして絶大な支持を得ていた門司隊長の死−。代わりに隊長になったただの平隊士の俺。
この状況は納得できた。わからないのは門司隊長の意志だった。門司隊長だってこうなることはわかっていたはずなのに。

「くそッ!!」
俺は走る速度をさらにあげた。まるで取り返せない過去を取り戻すかのように。もしかしたらこの先には門司隊長がいるのではないかという有り得ない希望まで浮んできた。
がむしゃらに走っていた俺の目の先にいくつか影が見えた。…と思うなり影が倒れひとつになった。
「誰だ!!」
おそらく俺に向かって叫んだのであろう、その声は聞き覚えのある声だった。

体が思うように動かなかった。
俺は全速力で抜刀し、その影に斬りかかった。
そいつは素早い身のこなしで俺の刀を受け止めた。その刀の柄は白く、刀身は俺の刀よりも長い。赤い月に照らされたのか、影を斬った所為なのか赤黒く輝いている。俺はその刀を見るなりそれが何なのか悟った…妖刀【翠月】。
なぜこの刀がここにある。屯所に置いてあるはずだ…それにこの刀は慎三郎が斬ったはずだ。こんなに長い理由が無い。
混乱する頭を前に向けると妖刀翠月の向こうには見知った顔があった。

−忠吾…?

錯乱する俺に忠吾は軽く笑みを見せる。途端に視界がぼやける。
…まずい!!
と、思うや否や視界が覚めた。目の前には慎三郎が槍で俺の刀を受け止めている。
「お前は…」
「あぶねぇ男だな、相変わらず」
俺は早々と刀を引き、鞘に納めた。
「こんなところでなにしてる」
「話してもいいが日が明けちまうぜ」
「構わん」
慎三郎はそう言ったが、空はもう紫色に近い。

気がつくと赤い三日月は消えていた。
| 高田 一樹 | 翠月が笑ったらぶった斬れ!2(小説版) | 16:59 | comments(0) | trackbacks(2) | - | - |
〜実現した夢〜
千草に頼まれた岳牙のツケを受け取りに俺は源山のおっさんのところに向かった。
そういや、ボーっとしてたから箒も持ったまんまだ。
なんかわかんねぇけど、掃除も手につかない。
あの男の所為だろうけど…。

どっかで会ったことがあるような、ないような…。

こういう時は大体真っ先に面倒臭ぇと思っちまう。
考え事なんてらしくねぇ…けど気になるもんは仕方ねぇ。
だからおっさんに聞きに行くことにした。

おっさんのとこに向かう途中に市橋を見かけた。隣には伊之助が歩いてる。
半笑いで薄気味悪ぃから話し掛けるのはやめた。
さっさとおっさんに会おう。

妖怪の根城とかいう場所に着くと今度は白峰がいた。
「源山ならいないよ、ついさっき出掛けた」
こいつだけは半年前から変わらない…いや、積極的に町に下りて来ないんだから変わったのか…まぁいいや。
「ほら」
白峰はそう言うと巾着袋を俺に投げた。片手で受け取ったらチャリンと音を立てた。
「小村屋のツケだよ。全く、岳牙のやつ…飲んだくれてばっかなんだから」
全く、羨ましい限りだ。
「それで足りないなら皿洗いでもさせてやってよ」
俺は、はいはいと頷き、帰ることにした。おっさんが居ないなら話もできねぇし。
「たまにはお前も飲みに来いよ」
「遠慮しとく」
白峰は未だに門司を殺したことを後悔しているらしい。
後悔ってのはまた違うんだろうけど、千草には顔を見せない。
俺だって俺を仇と思ってるやつには会いたくない。
そんなやつが居ればの話だけど…。

妖怪の根城を後にして少し歩くと、そこでとんでもないことに気がついた。
この景色…夢に出てきた場所とそっくりだ。
桜はまだ咲いちゃいねぇが、木の並び方、道幅はまったくと言っていいほど同じ。

途端に俺は全身に鳥肌が立つのを感じた。嫌な予感がする。
「…出て来い」
夢と同じ言葉を言ってみた。これで何も起こらなければただの気のせいだ。
木々の間に風が通り抜ける。サァーっと音がしてまた静かになる。
しばらくの間待ってみたがなにも起きなかった。
そりゃそうだ、なにもかもが違いすぎる。
半年前みたいな予知夢はもう見ないだろう…翠月は俺が斬ったんだ。

だけど、あの夢は半年前に見た夢と同じ感覚だった。
どうして夢の中に翠月が出てきたのか…今度はそれが気になり始めた。
「屯所に行くか」
長く考えた末、答えを口にして俺はそこから歩き始めた。

「くくく…すまねぇ。待たせたな」
声がした。振り向くと五つの影。刀を持ってないのを見るとおそらく妖怪なんだろう。
「いや、あんまりにもあいつが言った通りなんで笑っちまってよ」
「言っとくが、俺は刀は持ってねぇぞ」
「おい、あんまり変えるな」
別の妖怪が俺に話しかけてきた奴に言った。なんのことだかさっぱりわかんねぇが、おそらく俺の命を狙ってることだけは確かだ。
「うるせぇな!!」
俺は夢の通りさっさと素手の男に斬りかかった…が、忘れてた。
俺が持ってるのは箒だった。だが、そのまま打ち付けると素手の男は気絶した、代わりに箒は折れちまった。懐から出てきたのは銃だった。初めて見たが、そんなんに感心してる場合じゃない。
次は後ろから槍の男。案の定背中を狙ってきた、俺は半身をひねり、槍を掴む。右手で顔を殴り、槍を奪った。すかさず、槍の柄で男の腹を突く。槍を持っていた男は倒れた。
今度は棒の男。俺は夢の通り跳んで避けた…そこで見上げた空に俺はビビッた。

−赤い三日月。

長い槍で男の頭を打ち下ろした。全体重が乗った、男も倒れた。
「なんだありゃ…」
真っ先に夢だと思った。だが、滴る汗の温かさ、体の感覚、全てがそれを否定した。
そのまま残りの二人を打った。意外にも二人はあっさり倒れた。

問題はこの後だ。
運が悪ければ俺は死ぬ。千草に挨拶して出てくりゃ良かった。
思った通り背後に気配を感じた。

振り返れば俺は死ぬ。

夢では相手の太刀筋が見えなかった。だから避けようがない。
さっきとはまるで違う汗が体中から噴出した。
恐怖を振り払うように叫んだ。

「誰だ!!」

途端にその影は動き出した。俺は即座に振り返る、暗くて顔が見えない。
だが、赤い三日月に照らされた刀身が上から降って来るのは見えた。
俺は槍で受け止める。そいつの顔が近づく。
「お前は…!!」
俺とそいつは同時に声を揃えて言った。

その影は市橋だった。
| 高田 一樹 | 翠月が笑ったらぶった斬れ!2(小説版) | 16:36 | comments(0) | trackbacks(2) | - | - |
〜市橋と源山〜
【妖怪の根城】。
かつてはそう呼ばれた場所で俺たちは週に一度酒を飲むことにしている。
俺の向かいに座る男は【源山】−妖怪の頭目だ。
上の連中が知ったら俺は即殺されるだろう。
まあ、それは俺の嘘の報告がばれても同じことだ。

「なにか、変わったことはないか?」
一升瓶をドンと置き、源山は俺に言った。
俺はこの半年で初めてその質問の答えを変えた。
「入隊者だ」
源山も驚いたのだろう、即座に聞いてきた。
「名前は?」
「沢村忠吾…知っているか?」
結局あの試験では名を聞き忘れたが、小村屋にいた信也から聞いた。
女連れの浪人。そいつが小村屋にいたそうだ。
信也は意外なところで役に立つ。
「さあ、聞いたことは無い」
源山が知らないということはそれほどの者ではないと言うことか。
「そっちには変わった事はないのか?」
俺の質問には変わった答えは無かった。
「じゃが…なにか変わったことが起こるのはこれからじゃろう」
源山はそれから半年前の話を始めた。

確かに半年前、門司隊長の娘と慎三郎が来てこの町は変わった。
結果的に良い方向だった…そう思うのも源山のおかげだが。

「その沢村忠吾…腕はたつのか?」
その答えはには少し悩んだが正直に答えた。
「義隆と同等…か、それ以上だ」
「だとすればお前以上か、勝歳」
源山は時に俺を名前で呼ぶ…名前は門司隊長に聞いていたのだろう。
「さあな。実戦にならなければわからん」
確かにそうだと言いながら源山は顔をしかめた。実戦など起きて欲しくはないというのが本音だろう。
されど天巌隊は妖怪討伐の為の組織−それを忘れてはいけない。桜下町に害をなす妖怪が現れれば戦うしかない。

この町以外にも妖怪はいるはずだ。
俺の考えは間違ってはいない。この半年間の源山との会話でその確証を得た。
それでもそこまで討伐に行かないのは天巌隊の現在の戦力と…この町に余計な争いを持ち込まぬ為だ。
それが門司隊長の意志を継ぐことだと俺は思う。

程ほどに飲んだ酒にいくらかの銭を払い、後にする。
「もう居酒屋は止めたんじゃ」
いつも源山は俺に言うが、それでは俺の気が済まない。
(俺も丸くなったもんだ)と軽く口角をあげる。
出口に差し掛かるところで俺は声をかけられた。
「あんたも丸くなったねぇ」
町の者とは思えない服装、こいつも妖怪だ。
「俺も今そう思ったところだ、白峰」
白峰も軽く笑みを浮かべた。
「あんたと気が合うなんてあたしも丸くなったのかね」
「さあな」
さっさと外に出ると伊之助が迎えに来ていた。
「お疲れ様です、隊長」
「ああ、お前もな」
「俺はいいんです!!」
図体同様にでかい声を出すと伊之助は俺の後ろにいる白峰を見つめた。こいつはあの一件から白峰に会えるのを楽しみにしている…天巌隊の隊士が妖怪に惚れるなんて、笑える話だ。

「行くぞ」
伊之助は一拍遅れて返事をする。後ろで白峰が金糸の扇を振った。気配だけだからどんな顔をしているかはわからない。だが、伊之助の綻んだ顔を見る限り微笑んでいるんだろう。妖怪の根城を後にした俺は伊之助に言った。
「伊之助…止めておけ」
「なんでですか!?」
「…殺されるぞ」
ひぃっと声をあげながら伊之助は笑った。そのまま俺に言う。
「隊長でも冗談言うんですね」
「さあな」

−四月二日。
伊之助の持つ灯りに照らされた桜は咲き始めている。

| 高田 一樹 | 翠月が笑ったらぶった斬れ!2(小説版) | 17:49 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
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地元新潟で演劇活動などを行う人。


峰精流剣舞道峰精館所属。
雅号は高田壱峰(いっぽう)
師範なのを良いことにやりたい放題する。

殺陣教室!!
高田劇剣術道場

詳細はこちら
綺麗なお姉さんと心理学が好き。
モテたい。

twitter@sir_kz その他詳細は下のPROFILE欄でご確認ください。


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