Handmade Life

〜 one tree of Life 〜
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| スポンサードリンク | - | | - | - | - | - |
〜千草〜
「ふぅ…」
私は何度目になるか数え切れない寝返りを繰り返した。
−寝付けない。
何度も何度も今日のお昼過ぎの光景が目に浮んでは消えた。

−【沢村忠吾】。
昼過ぎに来た男はそう名乗った。久しぶりに見慣れない顔を見た。しかも二人も。
沢村さんの連れていた妹は【さつき】という名前で呼ばれていた。
お金持ちでも貧乏でもない服装の二人は高くも安くもない定食を注文して静かに食べた。
私が食後にお茶を出すとそこで初めてちゃんとした話をした。
「ここに双倉慎三郎という方はいますか?」
「ええ、でも今は出ていますけど」
私は驚きながらも答えた。慎ちゃんを探してるなんて…。
「あの…慎ちゃんに何の用ですか?」
私は聞かずにはいられなかった。
「それは…本人に会えたら、と言うことで」
私はそれからそれが気になって仕方なかった。けれどあまりに気まずいからもうひとつ質問してみた。
「この町には何の用でいらっしゃったんですか?」
「さっきの用事がひとつと…さつきの頼みで桜見物に」
そこまで聞くと聞き耳を立てていた岳牙さんが口を挟んできた。
「残念だったな、桜はまだだぜ」
「構いませんよ、しばらくこの町に居させてもらう予定ですので」
「そうかい」
岳牙さんは沢村さんががっかりするのを期待していたのか、あっさりと話を切り上げ信也さんとまた話し始めた。それでも二人が気になるのかひそひそと話している。
私だって気になる。元々この町の住人ではない慎ちゃんの名前が真っ先に出てきたんだから…。

二人はお茶を飲み終えると席を立った。
「お代はここに置いていきますから」
私は何故か引きとめようと声をかけた。
「あの、慎ちゃんに伝言しましょうか?」
けれど沢村さんはあっさりと背を向けたまま答えた。
「いえ、明日また来ます」
「じゃあ名前だけでも…」
「沢村忠吾です…こっちは妹のさつき。では失礼します」
「あ…ありがとうございました」
そこで初めて気が付いた。沢村さんの妹のさつきちゃんの目は見た目に似合わないほど鋭かった。あの目は見たことがある…半年前の私の目。

私はもう一度寝返りをうつとその目を思い出した。
父上を殺されたと知ったあの日から鏡で何度も見た私の目。
あの頃の私は敵討ちだけを考えて生きていた。
さつきちゃんはその頃と同じ私の目をしている。
−怒り、悲しみ、もどかしさ…。
きっとさつきちゃんは大事な人を殺されたんだろう。
「あ・・・」
ふと耳にした言葉が蘇った。
【ここに双倉慎三郎という方はいますか?】
どうして慎ちゃんを探しているんだろう…その答えは私の嫌な考えに結びついてしまった。
慎ちゃんが…さつきちゃんの仇…。
どうしても信じられない…けどもし半年前に慎ちゃんがこの町に来る途中で…。

嘘。慎ちゃんがそんなことするはずがない。
私は頭をふった。でも眠気が飛ぶだけでその考えは頭から離れてくれない。
慎ちゃんに聞けば簡単にわかることなのに…。
でも、もしそれが本当だったら…私の嫌な考えがあたっていたら…。
私は呪文のように慎ちゃんの名前を口に出した。
慎ちゃんは帰って来ない…もう空は白くなっている。

「慎ちゃん…なにをしてるの…?」
| 高田 一樹 | 翠月が笑ったらぶった斬れ!2(小説版) | 16:54 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
〜天巌隊入隊試験〜
妖怪討伐の為に結成された組織−天巌隊は半年前の事件から桜下町の用心棒とも言える存在になった。
「討伐する妖怪がいない」
と市橋は言い、一時は解散にする話もした。
だが、それは伊之助と信也の反対によって覆り、義隆の提案により今『町の用心棒集団』の形となった。
それでも天巌隊は名目上は『妖怪討伐の為の組織』でなければならなかった。
なぜならば天巌隊は領主の命で組織された隊だったからだ。
その為に市橋は週に何度か城へ通い、虚偽の報告をしていた。
嘘であるから何度も報告する必要があった。
領主に「確認の為に視察する」などと言われたらどうなることか・・・。
だから市橋は度々屯所を空ける。

珍しく入隊志願者が来た。それも市橋が屯所を空けている間に。
今日はその試験を行なう予定である。

天巌隊の試験は簡単で隊士の誰かと模擬試合を行い、市橋がその者の心技体を見るというものである。
今日の試験相手は義隆−天巌隊では市橋に次ぎ、二番目の使い手である。
義隆を選んだのは他に相手になる使い手が居ないからである。
伊之助、信也は強くは無い、万が一試験で負けでもしたら後々面倒なことになる。
そういう配慮があった。

隊長、市橋を義隆と入隊希望者が挟み、礼をして木刀を構える。
義隆の構えは少しおかしい。本来の構えならば右手を上にして構えるが、義隆のそれは左手が上に来ている。
義隆は幼い頃、刀など握ったことが無かった。とっさに握った形がそのままになっている。門司はそれを見抜き、右手で逆手に構えることを教えた。それから義隆は飛躍的に成長した。それでも今日のこの構えは道場稽古だからである。

市橋はその構えに片眉を少し吊り上げるが、ここで言っても恥をさらすと諦めた。
それに両者は既に戦闘体制に入っている。
「はじめっ!!」
義隆と入隊希望者は共に正眼に構え、動かない。
こういう時は頭の中の攻防が激しい。右に動くか、上から斬るか。さらにそうするか否か。
冷静に構える入隊希望者を見て市橋は使える相手だ思った。
そしてその希望者の名を聞いていないことに気付いた。が、既に試験を始めている。
そんな横槍をさすわけにはいかない。
そうこうしている内に両者が動いた。
先に仕掛けたのは義隆だった。彼は見かけや喋り方によらず意外に短気でせっかちである。喋り方はそれを隠す為のものなのかもしれない。
義隆は左袈裟に振りかぶり、男に打ちかかった。
男は正眼に構えた木刀を手元に引き寄せ、それを寸でのところでかわした。
「!!」
市橋は驚いた、伊之助も信也も義隆の刀をかわせずにいたのだ。
義隆は市橋以上に驚いていた。試験とはいえ、今の一撃に加減はしなかった。むしろ、先刻の頭の中の攻防でかなりの使い手であると思ったからこそ全力で打ったのだ。
それを受ける以上に避けた。義隆はそれに驚いた−と、同時に嬉しかった。屯所では相手になる稽古相手がいなかったから。市橋が出ている時は退屈で仕方なかった。

義隆の一撃を避けた入隊希望者はそのまま袈裟を斬ってきた。義隆は体制を崩しながらもそれを受けた。すると今度は義隆の右足に相手の刀が向かってきた。義隆はそれをやっとのことで避け、間合いを開けた。
「なかなか、やりますね」
義隆は賞賛の言葉を口にした。こういった試合の時にはそう簡単に言葉を出す男ではない。けれど義隆はそう言いたかった。
「そうですか、ありがとうございます」
入隊希望者はそう返答し、一言付け加えた。
「それでも僕は貴方のように人を斬ったことがない」
「…!!」義隆は驚いた。何故自分が人を斬ったことがあるとわかったのか、誰かから聞いたのか。それとも刀を合わせてわかったのか、それならばこの男は人を斬ったことがあるはずだ。
「義隆!!」
思いがけなかった言葉に思考が廻りに廻った義隆は油断していた。そんな義隆の首めがけ男の木刀が進んできた。
「くっ!!」市橋の激で意識を戻した義隆はギリギリのところでそれを避けた。
汗がどっと溢れた。
義隆は持ち手を代えた。門司の教えてくれた、あの構えである。
「義隆!!」
先ほどとは違い市橋は義隆を制止するように声をかけた。だが、届かない。
替わりにそれを合図とし、義隆は間合いを詰めに駆け出した。
袈裟、逆袈裟、左逆袈裟、左袈裟…
目にもとまらぬ速度で打ち出される木刀の猛攻に入隊希望者は受けながら後退する。
だが、一瞬の隙を見つけた。逆手の構えの袈裟斬りだ。
男はそれを待ち、受け続けた。そして−木刀を振った。

しばし沈黙の後、市橋が義隆を殴った。
そして入隊希望者に言った。
「入隊を認める…だが、この試験の内容は誰にも言うな」
返事をしかけた男に市橋はそのまま「今日はもう帰れ」と続けた。
入隊希望者がさった後の道場に市橋と義隆と長い沈黙が続いた。
しかし、もう一人…子供かと思うような幼顔の女が覗いていた。

二人がそれに気付くのは長い沈黙の後、義隆が謝る為に顔を上げた時だった。
| 高田 一樹 | 翠月が笑ったらぶった斬れ!2(小説版) | 17:13 | comments(0) | trackbacks(1) | - | - |
〜その男、慎三郎〜
−暗い…深い闇だ。
俺は半年前から何度も自分が死ぬ夢を見てきた。
見知らぬ男が俺に刀を振り下ろす、すると俺の視界は赤く染まり闇になる。
痛みは無い。
それでも自分が死ぬってのはなかなか気分の良いもんじゃない。

俺の視界が鮮血で赤く染まりそれが闇になると決まって声がする。
「慎ちゃん。起きて、もうお昼よ」
その声は俺を現実の世界に引き戻してくれる。
永遠に続くかと思うような深い闇から俺を連れ出してくれる。
あの時もそうだった…なんてな、昔話なんて柄じゃねぇな。

「はいよ」
と寝ぼけた体を起こす。
枕もとには千草がいる。相変わらず俺の寝坊癖が好かないのかムスッとしてる。
「おはよう、千草」
「おはようじゃないわよ。今はもうお昼」
「あ、そう」
素っ気無い返事をする俺に千草も素っ気無く箒を手渡す。
「はい、お仕事」
「毎日毎日掃除してんだからもういいだろ」
「毎日やらなきゃ駄目でしょ、家は居酒屋なんだから」
別にそんなこと気にするやつはここには来ねぇよ、と言いたかったが「だったら外でて働けば?」なんて言われるのが目に見えてる。そんなことを考えてむすっとした俺に千草は背を向けて店に出る。さっきまでの仏頂面が消えてるのがなんか笑える。
「さて、と」
俺は軽く伸びをして箒を片手に外に出る。頭はぼさぼさだけど、まぁいいか。
外に出るには店を通らなきゃならない。俺も千草の後を追うように店に出た。
相変わらずの客が居る。
「おお、慎三郎。やっと起きたか、こっち来いよ」
「よっしゃ、飲むか!!」
と意気込んだ俺の耳を千草が引っ張る。半端じゃなく、痛い。
「駄目よ、慎ちゃん。大体岳牙さんはもうお酒空なんだから。慎ちゃんにこっそり持って来させようって魂胆なのよ」
「別にいいじゃねぇか」と思わず口に出した俺に岳牙も「そうだそうだ」と乗ってくる。
岳牙とは相変わらず息が合う。
そんなことを考えてると店の暖簾をくぐり眼鏡の男が入ってきた。
「お邪魔します」
名前は確か…「ノブ助」
「信也だ!!ほとんど毎日来てるのに何で覚えないんだ!!」
悪い悪いと挨拶する俺を尻目に岳牙はノブ助に酒をせがむ。半年前からこの二人は何故か仲が良い。妖怪を討伐する天巌隊と妖怪が膝つき合わせて飲むってんだから笑える話だ。

「そうそう、今日はお父さんのところに行って岳牙さんのツケを貰ってきてね」
ノブ助の注文した酒を用意しながら千草が俺に言う。まったく、この岳牙がおっさんとノブ助の金で毎日飲んでるだから良い身分だぜ。
「はいよ、後でな」
軽く返事をして千草が出したノブ助の酒を一口飲んで店を出る。後ろで「俺の酒だ」なんて叫んでるが気にしない、いつものこと。

店を出た途端、子どもにぶつかっちまった。
どうやらまだ寝ぼけてるようだ。転んでしまったその子どもを引き起こそうとすると後ろから声をかけられた…と思ったがそれは俺の目の前の子どもに対してだった。
「さつき、大丈夫か?」
「平気だよ!!」
何故か目の前の子どもは怒っている。どうやら俺にぶつかったのが悔しいらしい。
俺の「悪ぃ」って声を聞かずに子どもが立ち上がった…思ってたより背があった。
それでも俺の胸当りに首がある程度だけど。
「すいません、妹が粗相をしまして」
後ろの男は俺にそう言った、俺の予想は外れていた。そんなに子どもじゃなかったらしい。後ろの男はそのまま続けた。
「ところで、ここは小村屋ですか?」
「ああ」と返事をすると男は礼をしてさつきとか言う子どもじゃなかった…妹と店に入っていった。
ちょいと気になるが、まずは掃除をしてからじゃねぇと千草に怒られる。

俺はいつも通り店の前の掃き掃除から始めた。


| 高田 一樹 | 翠月が笑ったらぶった斬れ!2(小説版) | 16:15 | comments(0) | trackbacks(1) | - | - |
〜小村屋の現在〜
居酒屋「小村屋」−。
桜下町のほぼ中心に位置するこの居酒屋は昼過ぎから暖簾(のれん)を上げる。

亭主の名は双倉慎三郎。
空色の着流しに垂らした総髪、髪色も黒ではなく茶色に近い。
昼間っから寝ていて、仕事と言えば頼まれて行なう庭掃除。
酒の酌もまともにできないこの青年は半年ほど前にとある男から店を引き継いだ。

もう一人、小村屋には看板娘と呼ばれる女がいる。
小村千草−。
この居酒屋と同じ名字を持つこの女性が実際に店を切り盛りしている。
淡い緑の着物に朱色の髪止め−そのふたつのところどころに白い透き通る素材が散りばめられている。
この居酒屋は彼女の父である小村門司が建て、とある男に渡し、その後千草の家となった。

小村千草、双倉慎三郎−共に若い。
だが、二人で切り盛りできるほどしかこの居酒屋に客としてくる者はいない。

桜下町は旅路の途中の寄宿町でもないし、わざわざ桜を見に来る物好きも途中で諦めてしまうほど他の町とは離れていた。
それでも町が潰れずにあるのは人間とは異なる種族が拠り所にしていたからだ。
その者たちは【妖怪】と呼ばれていた。
怪しげな術を使い、他の町の人々は恐れたがこの町の住人は違った。
小村門司という指揮者が居たからだ。
彼は率先して妖怪と共存を図った−それにより町は活気付いた。
だがそれと同時に他の町からは恐れられるようになる。
「それでも良い」
門司はそう思っていた。妖怪討伐の為の組織【天巌隊】が結成されるまでは−。

村の指揮者であり二代目天巌隊隊長でもある小村門司。
千草はそんな父の血を引いている。
そして今はそれを誇りに思っている。
だからこの小村屋を今でも切り盛りしている。

今日もまた妖怪の常連が店に来る。
橙色に黒をところどころ混ぜた着流しを肩にかけ、酒を一升軽々と飲み干す。
その様は豪快と言うより他は無い。
「おぉい、千草。もう一本!!」
その妖怪は片手をあげ、千草に注文した。酒の単位が杯ではなく本なのがいかにもこの男らしい。千草は台所からそれを制止する。
「駄目ですよ、岳牙さん。お酒は一本までとお父さんにきつく言われているんですから」
岳牙と呼ばれた妖怪は残念そうに舌打ちし、ほとんど空になった瓶を逆さにしてみる。
「それにしても源山がお父さんかぁ…柄じゃねぇなぁ」
気まずくなったのか岳牙は話題を変えた。

千草の父門司は既に亡くなっている。
その門司の親友だった源山を千草は父と呼ぶことに決めた。
源山は半年前までこの町の妖怪の頭領だった男−。
千草はそんな源山を父と呼ぶことで本当の父−門司の意思を継ごうと決めたのだった。

そしてそれはずっと続いている−。

慎三郎はまだ奥で眠っている。
千草はそれを横目で見ながら微笑する。

−今日の小村屋もいつもと変わらぬ平和な風が吹いている。
| 高田 一樹 | 翠月が笑ったらぶった斬れ!2(小説版) | 16:26 | comments(0) | trackbacks(1) | - | - |
〜半年後の天巌隊〜
−三月二十九日。
全国でも有数の桜の名所と呼ばれるこの町の桜はまだ蕾を温めていた。

天巌隊屯所は半年前に亭主の代わった居酒屋から北へ程なく行った先にある。
それほど大きな屋敷ではなく、小さめの道場に部屋が五つ、それから離れの小屋がひとつ。
あまり活気があるとはいえないこの町には似合いの造りだろう。

この屯所に住んでいるのは四人。
隊長、市橋勝歳。
副長兼観察、相馬義隆。
半年前に入隊した安富信也、時田伊之助。

隊長は口数が少なく、義隆はそれに慣れている。だからこの屯所を賑やかにするのは新米である信也、伊之助の役目である。もっとも、本人達にその気は無いが。

「だから俺の所為じゃないって言ってんでしょうが!!」
と、声を荒げているのは天巌隊一の図体を誇る伊之助。彼には屯所の造りが合わないらしく、玄関は必ずくぐって入る。しかし、呑気な性格で何度がぶつけたらしい痣が額に残っている。
「いいや、お前が悪い!!隊長がいないからってボーっとしてただろ!!」
伊之助の喧嘩を買うのは信也。はいからな眼鏡をかけている。二人は同期の扱いを受けているが実際に入隊したのは伊之助よりも一日前、信也はそれが気に食わないらしい。だから二人の間には喧嘩が絶えない。かといって決闘などはしないから、市橋も義隆も気に止めてはいない様子。
「ボーっとなんかしてませんよ!!」
「じゃあなんでこの掛け軸が切れてるんだ」
信也は屯所に飾ってある掛け軸を取り出した。そこには切り傷がついている。しかしそれもよく見なければわからない程度。信也の神経質さが伺える。
「これは猫がつけたんじゃないんですか」
「猫一匹を屯所に入れたお前が悪い」
「信也さんだって猫と遊んでたじゃないですか!!」
「なんだと!!俺が猫好きなのがいけないってのか」
二人は相変わらず頬をつねあっている。それを影からこっそり覗くのは義隆。
彼は二人が入隊してから、この毎日を観察するのが楽しくて仕方ないらしい。
「ぐぐぐ…」「ぬぬぬ…」
一通りの行動が終わったようなので義隆はいつも通り止めに入る。
「なにしてるんですか?」
毎日同じ事の繰り返しなのに伊之助と信也は相変わらず驚く。それもまた義隆の楽しみ。
そして二人はそれぞれ見え透いた言い訳をする。
伊之助は通りがかった飴売りの飴を買っていたと飴のついていない棒を取り出し、信也は猫を成敗しようとしたと泥だらけの足袋を見せる。
義隆は軽いため息をつき。
「このことは隊長には内密にしておきますから二人は屯所をちゃんと掃除しておいてください…そうじゃないと隊長にばれますよ」
と、面白半分に脅してみる。二人は案の定急いで雑巾を探しに行く。

−そんな毎日が義隆は大好きだった。

けれどその日は新しい出来事が起こる。
「すいません…ここが天巌隊屯所ですか?」
伊之助が門を開けてしまったばかりに屯所の中心の道場まで見知らぬ人間が来た。
義隆は戸惑いながらも返事をし、要件を聞く。
その答えは半年振りに聞いたが、今となっては想像もしていない言葉だった。

「天巌隊に入隊させてください」

桜下町の新たな事件が始まろうとしていた…
| 高田 一樹 | 翠月が笑ったらぶった斬れ!2(小説版) | 16:39 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
〜目覚めの夢〜
とある山の麓に【桜下町】(おうかちょう)という町がある。
そこは春になるとこの世のものとは思えないほど見事な桜が立ち並ぶ。

−深夜。
一人の浪人がその中で立っている。
この町では珍しい透き通るような空の青をした着流しを身に纏っている。

左手には白塗りの鞘。
右手には抜き身の刀。

どちらも普通のものとは異なる。
なにか怪しげな雰囲気がその刀から漂っている。


「…出て来い」

立ち並ぶ木々の向こうの気配を悟ったのか、浪人は囁くようにそこへ告げた。

事実、そこにはいくつかの影が蠢いていた。
その中の一つが浪人へ言葉を返す。
「ばれたか」
「ばれるもなにもお前等が呼んだんだろ」
「くくっ…違ぇねぇ」
影の声に間髪入れずに答えた浪人を嘲るような笑いで掻き消しながら影はゆっくりと正体を現した。

一、二、三、四、…五人。

各々はそれぞれ構えをとる。
斧、手甲、槍、棒…一人だけ何も持っていない。
浪人はそれを横目に見ながら斧を持つ男に話し掛けた。
「で、何の用だ」
「さぁな」
どうやらこの男がこの集団の頭目らしい。
「なんだよそれ。お前等が呼んだんだろ」
意図を掴めぬ答えに浪人は先刻の言葉を繰り返した。
「そうだ…だが用事を決めるのはお前だよ」
「わけわかんねぇよ…なら帰る」
「そいつぁ出来ねぇよ」
振り返ろうとする浪人を斧を持つ男は引き止める。
「じゃあどうしろってんだよ!」
勢いついて振り向いた浪人の首をめがけ男は斧を振りぬいた。
不意をつかれたが浪人は間一髪のところでしゃがんだ。斧が空を切り、男の舌打ちが聞こえた。
「なにが欲しいんだ、お前等は」
浪人は鞘を帯に納め、刀を両手で握った。この問いの答えは予想できた。
「お前の命か、その刀」
「そうかぃ!」
浪人は答えを聞くなり走り出した、向かう先は素手の男。
「おらぁ!」
素手の男は驚きながらも懐に手を入れた。なにかを取り出そうとしている。
しかし、それが何かを確認する前に男は倒れた。
切り抜いた浪人の刀が血を落とす前に今度は槍の男が浪人の背中を狙う。
浪人は振り返りざまに左手で槍を掴み、右手の刀を左から右へ動かした。
槍の男は胴を斬られ、地に伏せた。
次は棒の男が浪人の足元をすくうように棒を振った。
浪人はそれを跳んで避ける。
ふと見上げた夜空には月が浮かんでいる。

緑色の月…【翠月】(すいげつ)。

着地ざまに棒の男を袈裟斬りした浪人は状況を悟った。
「そういうことか」
体が妙に軽いのも、思い描いた通りに敵が動くのも全てこの月と自分が手にしている刀のせいなんだと。
浪人は目を瞑った。こういう時は感覚に頼るほうが早い。
次の瞬間、二つの影が倒れる音がした。
手には人を斬った感触だけが鈍く残っている。

浪人は目を開き、刀を鞘に納めるべく動かした。
刀身が半ばまで入りかけたとき、背後に気配を感じた。
…が、動けない。動けば次の瞬間には自分は斬られているだろう。それほどに強い気配を感じた。

動かない浪人へ気配の主は声をかけた。

「お前が双倉慎三郎だな」

驚きを隠せず、咄嗟に振り返った。
が、目に映ったのは夜空と…おそらく自分の血の吸った刀が振り上げられていた。

痛みは無い。

慎三郎はそのまま仰向けに地面へ倒れた。

夜空には変わらずに緑色に光る月が見える。

それと同時に先刻は無かったはずの月を眼の端に捉えた。

だがそれが何かを考える前に慎三郎の意識は途絶えた。

| 高田 一樹 | 翠月が笑ったらぶった斬れ!2(小説版) | 18:40 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      
<< May 2020 >>
+ SPONSORED LINKS
+ RECOMMEND
モテる技術 (ソフトバンク文庫NF)
モテる技術 (ソフトバンク文庫NF) (JUGEMレビュー »)
デイビッド・コープランド,ロン・ルイス
+ SELECTED ENTRIES
+ RECENT COMMENTS
+ RECENT TRACKBACK
+ CATEGORIES
+ ARCHIVES
+ 高田一樹
110715_1447541.jpg
地元新潟で演劇活動などを行う人。


峰精流剣舞道峰精館所属。
雅号は高田壱峰(いっぽう)
師範なのを良いことにやりたい放題する。

殺陣教室!!
高田劇剣術道場

詳細はこちら
綺麗なお姉さんと心理学が好き。
モテたい。

twitter@sir_kz その他詳細は下のPROFILE欄でご確認ください。


「こんな記事を書いて欲しい」リクエストや直接伝えたい方は下記のリンクからメールをお送りください♪

To Handmade Life
one___tree712@yahoo.co.jp
(___を削除してアドレスに打ち込んでください)
もちろんコメントもたくさんお待ちしてます!!
+ MOBILE
qrcode
+ LINKS
+ PROFILE